2010年05月05日

昨年実施した両生類フォーラムの大会後記

大会後記が両生類誌20巻に掲載されましたので、ご紹介します。


フォーラムの新しい形−地域密着型でおこなった第11回フォーラム(大会後記に代えて)
第11回フォーラムコーディネーター 高橋 久

 日本両生類研究会が主催する両生類自然史フォーラムは、年1回おもに8月に実施されてきた。学会の総会を兼ねており、研究会の大会の位置づけであるが、毎回の十分な参加者を得るまでには至っていない。その理由としては、日本両生類研究会が会員数300名を数えるまでに成長したもののまだまだ小さな学会であること、またその中での研究交流が十分におこなわれていないため毎回の講演数も少ないこと、両生類を対象に幅広い学問領域を扱う学会としての魅力を内外にアピールできていない、などの問題が挙げられる。
 そうした中で2007年に福井県越前市で開催された第9回フォーラムは、地域の自然保護活動団体ともリンクして多くの一般参加があり、また地元の研究者や自然保護活動者からの発表を取り入れるなど、多彩な内容を含むものとなった。両生類フォーラムの歴史の中でのひとつの成功例といえるだろう。 
 このたび第11回フォーラムを石川県において企画するにあたり、福井のような両生類を対象とした地元の活動団体の大勢の参加を期待することは難しく、別の切り口からの取り組みを考える必要があった。いずれにしても、日本両生類研究会自身の力に、その他の力をプラスすることがフォーラムの成功にとって必要なことであると考えた。幸いに石川県では、2010年の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の里山・里海関連の会議が開かれる可能性があり、里山や里海を中心とした石川型の生物多様性戦略ビジョンの策定に着手するなどの取り組みが始まっている。今回の会場となった能登島の長崎地区も、先駆的な里山保全活動を推進している地区として、わずかながら県や市からの補助金が交付されることになり、もともとの地区としての継続的な自然保護活動や地域活性化の取り組みが、さらに加速しつつあった。また、源内伸秀さんという、地元の自然保護に熱心に取り組んでいる方と旧知の間柄でもあり、日本両生類研究会のイベントとの連携が図りやすい環境であった。そこで、相互にメリットのある取り組みを企画した。
 両生類研究会にとっては、単なる会議の会場としてだけではなく、エクスカーションに地元のご同行をいただいたことに象徴されるように、人の暮らしとの関係を含めた両生類の生息環境をトータルにみる機会を提供いただいた。長崎地区にとっては、自然環境を活用した地域活性化のための交流の試行となったこと、また両生類や自然環境に関するスペシャリストからの多くのアドバイスを得ることができたものと思われる。
 交通の便が悪い半島のさらに海を隔てた島での企画は無謀でもあったが、参加者は多くはないものの例年からみて遜色なく、一方、参加者の満足度はきわめて高く、内容の濃いフォーラムになったものと自負している。地域とリンクするフォーラムのもくろみは成功したと思われる。今回の試みが、今後のフォーラムの発展へのひとつの事例となれば幸いである。

【フォーラムの記録】
 第11回両生類自然史フォーラムは2009年8月29日〜30日に石川県能登島においておこなわれた。
 29日の講演会は、能登島生涯学習総合センターにおいて、以下の通り、特別講演2題と一般講演7題がおこなわれた。参加者は28名で、石川県よりは7名であり、多くは県外からの参加者であった。北陸三県のみならず、遠くは青森県、東京、千葉、群馬、神奈川県、広島県から参加があった。能登までのアクセスに加え、島へたどり着くまでずいぶんと苦労された方も多く、能登が日本の真ん中であるとともに 端っこであることが実感された。しかしそのことに不満を述べる方はなく、能登の自然と人は優しく参加者を迎え入れた。
 2題の特別講演は以下の通り。
 「高齢化と過疎化が進む里山での生物生息環境の保全活動」と題し、七尾市能登島長崎・いしかわビオトープ交流会から源内伸秀氏。能登島の自然と両生類について説明いただいた。
 「宝達山系におけるサンショウウオ類の生態と現状」と題して、石川県両生爬虫類研究会より秋田喜憲氏。宝達山系において長年積み重ねてきた研究成果を発表いただいた。
 一般講演の7題は以下の通りである。
 「両生類味覚器官の形態と構造」、日本歯科大・新潟生命歯・第2解剖、熊倉雅彦さん・横須賀宏之さん・羽下麻衣子さん・吉江紀夫さん。
 「両生類味覚器官におけるガストデューシンの発現と局在」、日本歯科大・新潟生命歯・第2解剖、横須賀宏之さん・熊倉雅彦さん・羽下麻衣子さん・吉江紀夫さん。
 「マレートビガエルの繁殖と育成」 、新潟市水族館、岩尾一さん。
 「現存の両生類は何処から来たのか(単系統か多系統か)」、富山大学大学院理工学研究部で当研究会会長である内山実さん。
 「渓流におけるヒキガエル類の繁殖場所の経年変化」、富山市科学博物館の南部久男さん・富山南高校の福田保さん・ワイルドアイズの荒木克昌の発表。
 「旧鳥越村におけるカエル類のモニタリング調査」、石川県両生爬虫類研究会、   宮崎光二さん・石原一彦さん・樋口篤さん・樋口陽平さん。
 「福井県嶺南東部産アベサンショウウオの全体像」、福井県両生爬虫類研究会、   長谷川巌さん。
 個々の講演の詳細は、本号の講演要旨を御覧いただきたい。また、会場において、吉村雅子さんから写真の展示、中薮俊二さんから詳しい研究成果のパネル紹介、岩尾一さんと石原一彦さん、内山実さんには、それぞれ貴重な標本を展示いただいた。
 講演会の後は、能登島長崎地区の古民家民宿、吉兵衛において23名が参加しての懇親会がおこなわれた。地区からは、源内伸秀さん、町内会長の室屋哲生さんと生産組合長の中山博さんを招待して、両生類の生息環境である里山の保全等について、遅くまで活溌に話し合いがもたれた。 ほとんどの参加者は、そのまま民宿泊であったので、心おきなく話し合い、豪華舟盛りと海鮮鍋を腹一杯食べ、親睦を深めることができた。
 翌30日は、エクスカーションとして、長崎地区の両生類や里山の現状を視察した。研究会からは19名が参加し、地元からは源内さんと中山さんが同行した。まずは、海側の干拓地の現在はヨシ原になっている湿地で、両生類の生息状況を観察した。その後、岩礁海岸でのビオトープづくりの計画についてお話をお聞きした。また、海岸に降りて貝類の観察をおこなった。フィールドワークの達人ばかりであり、両生類だけでなく貝類にも詳しいメンバーから、そこに生息していたいくつかの貝類について説明を受けることができた。次に川を遡って谷地に入り、水田の両生類や爬虫類、ため池の生物を観察した。さらに奥の谷地は、かつてホクリクサンショウウオが確認されていた場所であり、誰ともなく陸上のサンショウウオ探しが始まった。皆しゃがみ込んで熱心に地面をまさぐり続けた。不思議なエクスカーションになった。帰りの道すがら、地元の環境保全の取り組みやビオトープの計画について随時説明がなされ、専門家の立場からのさまざまな意見が出された。昼までにエクスカーションは終了し、参加者は皆充実した思いを胸に帰路についた。
posted by うみさと案内人 at 12:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/37566848

この記事へのトラックバック